![]() |
![]() |
|
クリントンの告白とアメリカのカリスマ待望(98/8/24) アメリカのクリントン大統領が、元ホワイトハウス実習生のモニカ・ルインスキーさんとの関係がこの17日に「適切でなかった」「悪いことであった」と告白して以来、アメリカ国中どころか日本までが大騒ぎになっているが、私自身これは、アメリカ人の精神風土を見る限り大事件だと思っている。 この告白以上に注目すべきなのは、この告白のあとも世論は大統領を支持し、さらにクリントンの妻であるヒラリーさんも、家族の絆を強調し、夫を支えていくと明言したこと、さらにこのヒラリー発言も好意的に受け取られていることである。 アメリカという国は、日本が考えているほど「性」に対して寛容な国ではない。大統領が公然と愛人をもっていてもプライバシーには関与しないフランスとくらべて、アメリカ人の発想では、地位や収入の高い人ほど聖人であることが要求される。愛人はもちろん、発言にも細心の注意が必要で、うかつに差別的(と受け取られかねない)発言をすれば、社会的地位を失いかねない。また今回の問題は不倫である以上に、女性をもて遊んだという点でセクハラとして受け取られても仕方がないという文脈で問題であったわけだ。 というわけで、クリントンも一時は、この関係を否定した。 もちろん、いろいろな形で証拠がつきつけられたにせよ、今回クリントンは、告白という手段に打って出た。 これは、正直にざんげすれば許されるとか、浪花節的な同情を狙ったものではないだろう。要するに、「仕事ができるのだから、私生活が少々問題があってもいいじゃないか」という国民感情を読んでの行動だったのだろう。 クリントンの戦術は当たった。 この当たりをみていちばん喜んだのは、アメリカの多くのエグゼクティブの男性たちだろう。彼らはどんなに仕事ができて、甲斐性があっても、不倫がばれれば、離婚は確実につきつけられ、少なくとも全財産の半分は妻に渡さないといけない。それが男女平等社会でも義務だからだ。大統領でさえ、「浮気」であれば許される。するべき仕事をちゃんとしていれば。これは男性社会の時代は当然のルールだった。そのルールに戻る前例を大統領が作ってくれたのだ。 クリントン政権発足時キャリアウーマンの代表として登場したヒラリーが、今回は仕事のできる夫の少々の浮気は許す「古きよき妻」の代表に変貌したというわけだ。 さて、このような歴史的変換の背景にはアメリカ人の信じがたいほどのカリスマ待望の心性があると私はみている。アメリカの景気がよいのは、投資家がマネーゲームに走り、株価があがることで、国民の資産が増えているからだ。その一方で貧困層は増え続け、中間層の数も減ってきている。貿易赤字もひどいものだ。クリントンが何をしたというわけではないのに、国民は景気がよいと大統領のおかげと思い、悪ければ大統領が悪いことになる。個人主義というが実態は実に他力本願だ。現状のアメリカでは誰が大統領になっても景気はよいはずなのに、国民は変化を嫌い、クリントンの続騰を支持する。 私がもっとも好きな精神分析家のハインツ・コフートは、人間は自分をほめてほしい野心の極と、自分が安心していられるように強いカリスマをもっていたいという理想の極の間を行ったり来たりする悲劇的動物だと述べた。賞賛と現世利益を求めるビジネスの成功者の中で、それを満たされない多くの国民は強い大統領がいることで、強い国民である事に酔いしれる。そのカリスマ待望の心性を読み切ったかのように、テロの基地だと決めつけて、国交のあるよその国に、宣戦布告もせずに爆撃する(適当な疑いがあれば宣戦布告をせずに爆撃してよいのであれば、真珠湾攻撃だって言い訳できたのではないか)。もちろん理想の極にしがみつく国民たちはこれを支持し、不倫も何のそのでクリントンの支持率はあがるだろう。主権侵害をされた国はたまったものではないし、少なからぬ人命がその代償になっているが、それはおかまいなしだ。 日本だって、カリスマ待望はひどい状態だ。勉強ができてもそう野心の極は満たされないし、こう景気が悪ければ仕事がうまくいって野心の極が満たされることはない。すると国民は理想の極に走ってカリスマを求めるだろう。 首相がかわれば景気が好くなるという他力本願の発想が強いので、カリスマでない人が首相になると国民をあげて大ブーイングだ。私のみるところ、アメリカの無理難題にノーが言えて、かつ国民が安心してお金を使える施策を打ち出せる人が出ない限り景気はよくならないだろう。残念ながら、現在のカリスマ菅直人も小泉純一郎も失格なのだが、とりあえずカリスマ待望は続くはずだ。そしてカリスマが政権をとってもやはり景気がよくならないと、さらに国民の抑うつはひどくなり、景気が悪くなるとともに、さらに過激なカリスマ待望が始まる。 日本がファシストやカルト・リーダーの手にわたらないように少しは冷静になれるようにしたいものだ。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (C) 2000-2006 Hideki Wada Institute,co All rights reserved. |