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生活改善薬という発想(99/7/3)

 最近、厚生省が立て続けに、アメリカで認可されているが、日本では利用できなかった薬を認可した。バイアグラや低用量ピルなどはその例である。
 外国で認可されている薬を早く日本で以前より迅速に利用できるようにしたのは、ビッグバン時代や規制緩和の流れにのる好ましいことだと思うが、私が厚生省の方針転換についてもう一つ評価したい点がある。それは生活改善薬という発想を取り入れたことだ。
 たとえば、バイアグラが心臓の悪い人に重篤な副作用が生じ易いために医者の処方がないと入手できないとしても、これに医療保険が適用されるのなら、腑に落ちない人は多いだろう。これは治療目的ではなく、生活を改善するための薬なのだから、自腹を切るべきだというのは、説得力のある発想である。保険医が出す薬はすべて保険適用でないといけないという硬直した発想から抜け出した点は、非常に評価できる。
 医療の高度化と人口の高齢化に伴い、薬剤費が膨張を続けているが、この考え方をさらに援用すべきだと私は考えている。
 というのは、保険薬は治療薬と予防薬が渾然一体となっているからだ。肺炎の治療に使う抗生物質は、命を救う薬であるし、使わないと生命が危険にさらされるので、どんなに貧しい人でも、その恩恵に与れないといけない。ところが、最近入院医療費に定額制が採用されるようになって、これらの薬を使うと病院の利益が減るためか、「寝たきりのまま長生きしていても仕方がない」と説得して使用が手控えられることがある。
 いっぽう、高血圧や糖尿病はよほど重症のものでない限り、それだけで命を奪う病気でない。脳の血管異常や一部の血圧が300を超えてしまうような病気でない限り、多少血圧が高くてもそれだけでは死なない。糖尿病でもT型と言われる自分でインシュリンが作れない種類のものでなければ、やはり死なない。しかし、放っておくと動脈硬化や心肥大になるし、脳出血の可能性も高くなる。その予防のために治療の必要がある。つまり、これらの薬は広い意味で予防薬と言える。
 予防薬の場合は、これを飲んでおいたほうが確実によいという証拠が必要だ。たとえば、年寄りの場合、どのくらい以上の血圧なら本当にまずいのかを再検討する必要があるだろう。コレステロールを下げる薬も出ているが、現時点ではコレステロールが高いだけでは、さまざまな心脳血管障害のリスクにはなっていない。喫煙や高血圧など、ほかの因子がからんだ場合にコレステロールが高いと悪いということがわかっているだけだ。骨粗鬆症も寝たきりの原因とは言えないだろう。女性の高齢者の7割がこれにあてはまってしまうのだから。むしろ転倒の予防対策のほうが大切で、どのレベルから治療が必要かのチェックもいる。この手の予防薬を何種類も飲むような人は、多剤併用に害も出てくるので、どの薬が本当に必要なのか、どの薬はやめてもいいのかの検討も必要だろう。
 そういう点で、予防薬の保険適応についても、もっと厳密さが必要なはずだ。
特に高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、高脂血症は軽症の場合、食事や生活を改善すれば、たいてい正常範囲に戻るのに、その努力が十分なされないまま、投薬や注射に頼ることが多い。自分は減塩食やカロリー制限、日光浴などができないから、薬で解決してほしいというのなら、生活改善薬とみなされるべきだろう。
 このように様々な薬について、本当に保険でお金を出すべきかの再点検を行い、保険の趣旨に合う薬しかお金を出さない代わりに、自腹を切るならたいていの薬は利用可能という発想は、保険財政の改善だけでなく、薬の意味を医師やユーザーが考えるためにぜひ必要なものだ。
 生活改善薬という考え方は、何のために薬が用いられるのかを考える大きなチャンスを与えてくれるのだ。
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