![]() |
![]() |
|
親を不安にする精神科医たち(2000/6/12) 最近、章かに常人の理解を超えた少年犯罪が多発するためか、コメントを求められることが多いが、カットされない形のものをのぞいて、なるべく逃げ回っている。真意が伝わらず誤解を避けたいからだ。 これは、精神科医として、自分が恥をかくことを恐れての話ではない。むしろ、誤解されることで無用の心配を親に与えたくないからだ。 実際、この手の事件が続くと、どんな子育てがよくて、どんな子育てが悪いかというような精神科医や心理学者のような専門家によるコメントが次々と提唱される。私の妻でさえ、「こういう子育てだと子どもがおかしくなるんでしょ?」「キレやすくなるんでしょ?」と聞いてくる。 これについては、イエスかもしれないし、ノーかもしれない。多くの場合、臨床経験(自分の診た子どもの患者はこういう子育てを受けてきた)あるいは、何らかの心理学、精神分析学の理論に基づいてのアドバイスであって、聞いている限りもっともらしく聞こえるし、説得力もある。 しかし、これまで聞いてこの手の言説のなかで、たとえばAという子育てをしたらキレやすい子ども(たとえば、DSM−Wにおける反抗挑戦性障害)になったとして、Aという子育てが、他の子育てと比べてキレやすくなるのか、あるいはどのくらいの頻度でキレやすくなるのかということについて、統計調査に基づいた数字で語られたことがない。少なくても確実に言えるのは、Aという子育てをされた子どもでもキレやすい子どもにならないことも多いし、むしろそのほうがはるかに多いということである。 統計学的、確率論的根拠に基づかない言説は、原則的に検証されていない仮説である。それに振り回されていても仕方はないのである。 むしろ、親を不安にするほうが害が大きい。 アメリカを代表する精神分析学者であり、文化人類学者でもあるエリク・エリクソンは、さまざまなネイティブ・アメリカンの子育てを観察した。すると、何年もオッパイを吸わせるような甘やかしをする種族も、激しい体罰を加える種族も、それほど精神障害が生じないことを観察した。ところが、白人がやってきて、「そのような子育てをすると、子どもがおかしくなる」と非難したり、やめさせようとすると如実に精神障害の子どもが増えるという観察もしている。そんなエリクソンが世界で最初の医学的子育てマニュアルである、スポック博士の育児書の中に意外な発見をする。その冒頭に、「自分を信じなさい」と書かれているのだ。 エリクソンの解釈では、この育児書がマニュアルとされ、その通りでないといけないと親が不安になってしまうとかえって子どもがおかしくなると心配したのだろうということである。私もその意見にまったく同意である。 もちろん児童虐待や児童無視のように、明らかに子どもに悪い子育てはある。しかし、そうでない場合は、これまでの親がやっていたようなものであれば、少なくともそれだけが原因で子どもが異常になることはないだろう(もちろん、どんな子育てをしていても、一定数、何らかの精神障害を患う子どもは生じる。しかし、それはその子育てだけが原因ではないだろうと言いたいのだ)。むしろ親が一貫性をもち、親が愛情をもって育てていればそのほうが結果がよいのではないだろうか? いずれにせよ、親たちが子育てに不安をもっていて、メリットはない。私も自戒の念をこめていうが、臨床のできる医者はその手のことをわきまえて、この手の事件でどんな子育てが悪いかというコメントはまずしていない。 もちろん、私を含めて、精神科医が患者やその親にアドバイスをすることはある。しかし、それは目の前に患者がいる場合だ。その子どもや親というバックグラウンドがわかっている上に、仮にそのアドバイスの通りにやって悪くなったら修正ができるという条件付での話である。それができないときに、コメントを垂れ流して、親を不安にすることは、百害あって一利なしだと私は断言したい。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (C) 2000-2006 Hideki Wada Institute,co All rights reserved. |